深層学習(CNN)を用いたMR画像の撮影高速化と高画質化について

MRIは、人間の体内を痛みを伴うことなく撮影できる医用画像診断装置です。
癌や脳卒中など様々な病気を発見できますが、一般に撮影に多くの時間を要します。
そのあいだ、患者は大きなMRI装置の中で数十分にわたる安静が必要です。
患者の負担軽減のためにも、撮影時間の短縮はMRIの大きな課題の一つとなっており、様々な研究が進められています。
私たちの研究室では、独自の信号エンコード法や人工知能(AI)の一種である深層学習を使用して、この課題の解決に取り組んでいます。
ここでは、その一例をご紹介します。

(1)MRIの撮像時間短縮法について

MRIでは、体内の水素原子を磁気の力で作用させて撮影を行いますが、この過程に時間を要します。
そこで、撮影に必要となる情報(信号)を全て受信するのではなく、少しの信号だけ収集し、撮影過程を短縮する手法が考案されています。
少しの信号では不完全な情報なので、得られる画像には図1のように乱れが発生します。この乱れを取り除かなければ、診断には利用できません。


そこで、画像データが本来持っている性質を利用して、数理的な反復処理によって乱れを取り除く手法が提案されています。
この手法は、コンピュータで時間をかけて行わなければならず、以下の点が課題でした。
  • 撮影は短縮できても、それを画像化するコンピュータ内での処理に時間がかかる。
  • できあがった画像が人工的な画像のように見えることがある。
  • この問題を解決するため、私たちは深層学習に着目し、国内で最も早い段階でMRIの画像生成に応用しました。
    深層学習を用いれば、生体の特徴を反映した高品質な画像を短時間で生成できる期待があります。

    (2)深層学習による再構成

    深層学習の一種に分類される教師あり学習では、深層学習ネットワーク(CNN)に手本となるデータを与え、
    手本通りのデータを生成できるように学習することで、所望の処理を実現します。
    MRIの画像生成に応用する場合、図2のように、予め用意した①「全ての信号を収集した乱れがない画像」と、②「少数の信号から生成した乱れのある画像」のセットを用いて、
    ②が入力されたら①に近いデータを出力するように学習します。②の画像は、①の画像からコンピュータ上で信号を少数に限定して生成します。
    病院などの実際の現場では、①の画像は存在しませんが、学習済みのCNNを用いれば、②の画像のみから、乱れのない画像を推定することが可能です。


    この基本的な仕組みをもとに、現在では様々な発展的手法が国内外で提案されています。
    私たちの研究室では、研究室で提案されたeFREBAS変換と呼ばれる画像の多重解像度表現とCNNを組み合わせた、新しい手法であるeFREBAS-CNNを提案しました。

    (3)eFREBAS-CNN

    eFREBAS変換は、多重解像度解析手法のひとつであり、図3のように1枚の画像を複数枚の小画像(サブ画像)に変換します。


    一般に、画像は様々な周波数成分から構成されていますが、eFREBAS変換は画像を周波数成分ごとに分離できる性質があり、
    各サブ画像は異なる周波数成分から構成されています。
    図2の②の画像は、多くの周波数成分の情報を間引いているため、eFREBAS変換したサブ画像では、情報の消失が目立ちます。
    そこで、eFREBAS-CNNでは、図4のようにサブ画像を情報の保存度合に応じて3グループに分割し、3つのCNNでグループ毎に画像を再構成します。

    これにより、各CNNは以下のように動作するため、従来の深層学習再構成法よりも周波数成分ごとの復元性能の向上が見込まれます。
  • 情報が残っているグループに対しては、間引きで生じた乱れの除去を目指す。
  • 情報が失われたグループに対しては、間引きで失われた成分の復元を目指す。
  • eFREBAS-CNNと従来の一般的なCNN再構成法によるシミュレーション結果を、図5に示します。

    ここでは、撮影時間を30%に短縮していますが、eFREBAS-CNNでは、脳の細かな構造が鮮鋭に描出されており、撮影時間を短縮しない場合と同程度の画像が得られています。
    本手法はまだ初期検討の段階であり、今後も開発を続けていく予定です。

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